当法人は「浜松市地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」に係る日本語教室のうち、浜名協働センター会場の取組の再委託を受けています。

5月28日・6月4日の2回(3時間/回)にわたり、まずは「ひらがな」の学習全てを終えました。「『ひらがな』の学習を6時間で教えるのは無理、覚えるのは無理」というご意見も聞かれれば、「『ひらがな』だけで3時間やり続けるなんて、一体どんなカリキュラムなの?」という疑問のお声も聞かれたりします。

また、全国で定住外国人向けに行われるアンケートの問いに多い「『ひらがな・カタカナ』できますか」に対して、「少しできます」「ほとんどできません」という回答が多いことも見受けられ、どうしたらよいのかと考えてきました。

様々な思いが交錯する中、針の穴に糸を通すような心持ちでこの事業に向き合っているのですが、「少しできる」というのは「できる」ですし、「ほとんどできません」も「少しできる」というように解釈できます。このことから私たちは「自己効力感」というキーワードにたどり着き、これを上げる支援をすることで、委託を受けた目的を果たせないかと挑戦しています。

 

以下、2回にわたる「ひらがな」支援の報告です。

 

★五十音に触れたことがないという人は(ほとんど)いないということに着目

定住者の場合、「ひらがな・カタカナ」が「できない」という視点に立ちますと「ふりだしにもどる」という状況に陥ります。しかし、五十音表を見れば、多くの方は「aiueo/kakikukeko…」の配置で並んでいることをご存知です。また簡単な語彙なら、それを読むこともできます。このことは、音と文字が一致している証だと思いますが、さらに多くの音と文字を一致させていくには、どのような梯子を掛けるのが良いのか、活動を考えてみました。しかも、能動的に取り組みたくなる支援を重視しています。

 

★「あいうえお、かきくけこ…」と唱えながら、文字カードを並べていく

音と形のマッチング作業をしていきました。並べてはバラバラにして、また並べ直してを繰り返し、一つ一つの音に対する形を覚えていきます。この事業には4名の講師・補助者がいますので、皆さんの自主学習を見て回り、支援しています。

(文字カードは昨年も使用しました。「こちら」)

アナログな感じのする文字カード…。スマホやタブレットでもいいじゃないかと思いますが、意外とこういう小物が意欲をかきたてることもありますね。学習者の学習観に寄り添うことも大切にしています。

 

 

★音と形を覚えた後に書いてみる

かねてから、知らない音と形をやみくもに書いてひたすら覚えるというのは効果が上がらないのではないかと考えていました。と言いますのも、多くの学習者は「百円均一ショップでドリルを買って何度も書いて勉強した。でもできない(できたという実感が得られない)」と言うのです。そのため、下記の梯子を考えました。

①音を覚える(知っている)

②知っている音の形を覚える(読めるor推測できる)

③②を踏まえた上で書いて、音と形の記憶を一致させる

④たくさん書いた文字の中から「ベストオブ”あ”」「ベストオブ”い”」…を自身で選ぶ。それらを教師や補助者・学習者にも意見を求め、「そうだね」「私は、こっちの”あ”もバランスがいいと思う」などやり取りする。

 

ちなみに、「ひらがな・カタカナがほとんどできない(できるという実感が得られない)」ということで、自己評価を上げるのに足りないのは、おそらく③の「書くこと」への自信のなさなのではないかと思われます。

「書ける」に至る梯子がない限りは、自己効力感が上がらないのではないか?!ということに気づいたのですが、「梯子を掛ければできる」という支援のあり方は、当法人の得意とするところでもあります。

いっぽう、少なからず社会の側が「書ける」を求める限り、個人の自己効力感に影響を与えているという現実も否めません。私たちは自己効力感を上げられないような社会の風潮を作ってしまっていないか、あわせて考える必要があるということも添えておきます。

 

★「覚えた」「書けた」という達成感を確かなものにするための工夫

「できた!(という実感)」を見える化するために、どんな題材がよいか考えました。そこで、「五十音の穴埋めがすべて自力でできること(HICE「ひらがな・カタカナれんしゅう帳 p.70 )」をクラスの共通目標に据えました。五十音を順番に書けることを求めたのではなく、皆さんに味わっていただきたかったことは、何も見ずに自力で穴埋めできたときの「気持ち」でした。やってみてどうだったかをうかがったところ、「達成感を感じた」「うれしい」「挑戦するのが楽しかった」「ありがとう」と前向きな感想が聞かれました。

~そうですか!私たちもうれしいです^^~

(みなさん、目標に向けてご自宅でも勉強を頑張ったのだと思われます)

 

また、このクラスへ来たばかりの時、読めるけど書ける文字が一つもなく、自信を失くしていた方が、2回を終えてほぼ「ひらがな」読み書きをマスターしました。聞けば「子どものころ、兄弟が多くて十分に勉強できる環境ではなかった。子どものとき、もっと勉強したかった。今から勉強を頑張ろうと思う!」ということで、熱意を聞かせてくださいました。その方は未就園児のママさんでもあります。

~「ひらがな」の学習が、ご自身の人生を振り返るまでに至ったのですね。私たちにそのようなお話を聞かせてくださいまして、感謝します~

(このようなご自身の学びに対する気づきやお気持ちが、ママとしての支えにもなり、次世代に受け継がれるようでしたら幸いです)

・・・

こうして、学習者自身が納得して「できた」を獲得してもらうために奮闘しているのですが、これには「キャリア教育」の分野からいくつか手法や理論にヒントをもらいながら運営をしています。今後、折に触れてそれぞれご紹介できればと思いますが、本記事にはキーワードのみご紹介します。

・自律学習

・ピア学習

・自己理解

・受容・共感・自己一致

・自己効力感に大事な4つの要素→遂行行動の達成・モデリング・社会的説得・情動喚起(なお自己効力感は自己肯定感とは違います)

 

そして何よりも、このクラスは「チームティーチング」が肝になっています。教師・補助者も学習者と一丸となって協力し合い、教室に関わることで、「多様な評価」による関係性づくりを醸成しています。

さぁ、来週からはカタカナの勉強です。クラスは8月まで。後半は生活漢字も取り上げていきますよ♪

Maraming salamat po.