おかげさまをもちまして8月6日(土)、浜松市地域日本語教育の体制づくり推進事業「週末浜北コース」が終了しました。
5月から「ひらがな・カタカナ」、6月には「漢字」の勉強に入り、最終日は「漢字で住所を書く」という学習内容でした。
…が、実は最終回、漢字で住所を書く「練習」はしていないのです。でも、みんな「できた」という取組をしましたので、下記、ご報告を申し上げます。
(*^^)v
このクラスでは5月からずっと、「最終回には漢字で住所を書くよ」「協働センターの窓口に行って、住民票の申込書に書くよ」とアナウンスし続けてきました。
あわせて、早くから皆に「こちら」(2020年度の報告として、文化庁に提出したオリジナル教科書より)のハンドアウトをお渡ししていました。
さらに毎回、授業が終わるたびに「宿題で住所を書く練習をしておいてね」と伝えたり、「授業は1時からだけど、12時半には部屋を空けておくので早めに来て練習してもいいよ」とアナウンスしたり…。
またLINEでは、「みんな、住所書いてる~?」と動画メッセージを送ったり(笑)
「筆順アプリ」を紹介したり…などなど。
あらゆる声掛けで、自主学習をサポートしてきました。(「ちょっとずつでいいから、やってみてね」をLINEグループに動画で送るの図)
平行して、テーマに沿った漢字学習はカリキュラム通りに進行していました。とくに浜松市から指定の「ベーシックストローク」「薬局」「病院」「道」というテーマについては各語彙の書き順はもとより、自主学習では難しい字のバランス、成り立ち、意味などの「漢字の基礎」を日本語教師が教えながら、そして教室補助者も細やかにサポートしながら、チームティーチングで展開していきました。
いっぽう、「住所のテーマ」は皆さんがお持ちの在留カードに「漢字のかたち(答え)」が書いてあることを手掛かりに、「自主的に取り組んで書けた」というゴールに向けてサポートしていきました。
漢字で住所を書くことについては「自分のこと」として
・暗記していないけど、書いた経験がある
・上手に書けないけど、書いた経験がある
・書いた経験はないけど「書いてみたいと思っていた」
多くの方は、いずれかにあてはまり、すでに「書きたい動機は持っているテーマ」だと考えたからです。そのため皆には、「漢字の基礎や学び方を身に付けたし、自分に必要な漢字だから、きっと書けるようになるよ」ということを言い続け、後押してきた3か月となりました。
加えてもう一つ、みんなの自信をより確かなものにするため、早くから協働センターの職員さんに協力をお願いしていました。
「私たちは毎週、漢字の勉強をしていますが、最後に住所を書きたいと思っています。実際に窓口で住民票の申込用紙に記入するというワークをしたいのですが、協力していただけませんか」とお願いしたところ、ご快諾いただきました。
こうして迎えた当日。協力してくださるお礼にと、先にご担当の田中さん(仮名)には静岡県の「やさにち富士夫くんバッジ」をお渡ししてあったのですが、エプロンに付けて教室へお越しくださいました。「私、やさしい日本語で話せるかしら~」と協力を楽しみにしてくださっていたご様子。
しかも!田中さんは、本来A5サイズの住民票の申込書を、ホワイトボードに貼って説明するためにA3サイズに拡大印刷の準備をして、このクラスに備えてくださっていたのです!ありがとうございます^^
田中さんは、住民票の申込書に書くときの注意点や外国人市民が窓口へ来て、よくあるケース(持ち物や本人確認、申請目的に合わせたレ点を入れる箇所など)、協働センター窓口で取得できるその他の書類についても、とても丁寧にユーモアを交えて教えてくださいました。その様子は、これらのお写真から伝わるでしょうか。
「本人確認書類は、車に乗る人は免許証でいいし、いつも持ち歩いている在留カードでもいいのよ。マイナンバーカードでもいいけど、あれはなくすと大変だから、持っている人はちゃんと金庫で保管してね。なくさないように気を付けてね」と、みんなのことを心配し、気遣ってくれました。
(みんな金庫を持っているかな!?と見守りつつ、少なくても田中さんが皆のことを気にかけてくれている様子が伝わってきます♡)
ある学習者がポロリと。「この人、いい人だね。(サンプルで見せてくれた)免許証もゴールドだしね」と言っていました。
何か、心に響くものがあったのでしょう^^
さて座学が終わり、田中さんは「私は先に窓口へ戻るわよ。あとで、待っているから。心の準備ができた人から来てね。」とメッセージを残して去っていかれました。
学習者たちも順番に窓口へ移動し、さぁ、いよいよ「漢字で住所を書く」という本番です!緊張感の中、思い思いに最初の一言を窓口で切り出して…
「すみません、住民票お願いします」
「すみません、田中さん、いらっしゃいますか」
みんな、すごく真剣!
書き終えた人には田中さんが一人ずつに、「がんばったわね。書けたわね。大丈夫!わからないときはこれからも、私に聞いてね」とお言葉をかけていらっしゃいました。(心強いです!これからも土曜日、よろしくおねがいします)
こうしてセンター職員と利用者である私たちの間で関係性が築き上げられ、そのような安心した環境下で「漢字で住所を書くことができました」。
この取組について皆さんの感想ですが、教室へ戻って来るやいなや「キャー、先生、うれしい!できた~(><)」と小刻みに足踏みして喜ぶ方もいましたし、
★自力で書けて、楽しかった
★Self confidenceになりました
★次は、印鑑登録をしてみたい
というお声が聞かれました。
それから印象的だったのは「いつも、ローマ字で書いていたときは長くなってしまってフレームの中に入らなくて、すごく嫌だった。漢字なら、このフレームの中に収まる!書けるようになって、よかった」とおっしゃった学習者がいたことでした。
漢字で書くと枠内に収まるという喜びを得て、これまで潜在的に感じていた不快感・困っていたことに気づかれたようです。ご自身でそれを解決して、晴れ晴れとした表情をしていらっしゃいました。この方、妊婦さんなのですが、これからたくさん書類に住所を書く機会があると思います。よかったです。
・・・
ところで来年2月ごろ、浜松市は窓口での住民票をはじめとする書類申請はペーパーレスになっていくそうです。「だったら、漢字で住所を書けなくてもいいんじゃない?」というお声も聞かれないわけではありません。
ですが、「書けるようになりたい」「書けるようになった」という「思い」に、地域が理解を示し、寄り添う意味は大きいと思います。
日本語教育を取り巻く施策が激動の今、「地域活性化」を目的としたビジョンや理念、あり方が示されつつありますが、現場はこれに呼応し「教育実践としてのカタチ」を、試行錯誤ですがどんどん輩出していきたいです。
みなさん、またお会いしましょう。
★9月10日からは「バヤニハン~みんなで地域をつくっていこう~」の浜北クラスが開講です。引き続き、よろしくおねがいします。