11月3日、「生活者としての外国人」のための日本語教育事業のうち、日本語教育を行う人材の養成・研修が行われました。

後半は、「災害への備えを、『地域』日本語教育で取り上げる意義について理解を深めよう」というタイトルで、岩手大学国際教育センターの松岡洋子教授にお話いただきました。

先生は「どうやって、外国人や学習者だけでなく日本人も巻き込み、自分事として捉えてもらうか」を念頭に置き、講座準備を進めてくださいました。それで、東日本大震災の時、陸前高田市で被災された中国人女性にビデオインタビューで協力をお願いすることに致しました。その女性は吉田亜未さんとおっしゃいます。

吉田さんからは、「震災から10年経ち、記憶が薄れてきている。自分にとっても語り継がなければならない。お役に立てるのであれば」とおっしゃっていただき、この依頼をご快諾くださいました。辛いご経験を私たちの教訓のために共有してくださいましたことを、まず本報告の前にお礼申し上げます。

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さっそくですが吉田さんの動画を拝見して、私たちは2つ考えなければいけないことがあると感じました。

 

①命を守る行動(災害時・直後)

動画には津波による轟音、恐怖で興奮している人々の声…当時の混乱した光景が収められていて、言葉を失いました。

出勤先で被災した吉田さんは、自宅にいるご主人の安否を気遣いながら、とにかく帰らなければならなかったこと。しかし帰宅ルートは「いつも使っている海側の近道のルートをとるべきか」「慣れない山側ルートをとるべきか」。山側を選んだ場合は土砂崩れの心配もあり、道を進めてみないと何とも言えない状況だったこと。

彼女は山側を選んだそうですが、進む道のアスファルトの状況を注視し、タイヤが濡れた後があれば、その先は水害があって引き返した車があるというサインだから、自分も引き返す覚悟だったと言います。

穏やかな日常が一瞬にして命を守るための究極の選択を即座に迫られる事態に陥ったのだと知りましたが、このことは、「私たちは大災害時、即座にこのような”判断”を迫られるのだ」という教えでもありました。

命からがら、自分の住む街へ戻った彼女は茫然としたそうです。道という道はなく、自宅もどこにあるのか分からない状況でご主人の安否がただただ不安だったそうですが、運よくご主人の方から彼女を見つけてくれ再会できたとのこと。

ここまでのお話が大変緊迫しておりましたので、吉田さんがご主人にお会いできたと伺えて少しホッとしました。

それもつかの間、ご夫妻が荷物を取りに自宅へ戻ろうとしたのを近所の人たちは、「目を覆いたくなるほどのひどい光景が広がっている。それに危ない。戻らないほうがよい」と言ったそうです。

3月とはいえ、東北はとても寒い頃です。着の身着のまま仕事に出てきた吉田さんも、避難したご主人も避難所生活では本当に困ったとおっしゃいます。

数日後、自宅へ戻ることに決め、やっとの思いで持ち出せたものと言えばご夫婦でカバン1つ程度の大きさのものでした。そのときのお写真がたまたま地元新聞に掲載されたとのことで見せていただきましたが、本当にわずかばかりの持ち物を、憔悴しきった吉田さんご夫妻が運び出しているのが印象的で、胸が締め付けられる一枚でした。

 

②災害後からしばらくして生じる問題・課題

避難所には吉田さんのほか、技能実習生と思われる外国人も多く避難していたそうです。共同生活における問題はすぐに生じました。避難所では「安否を知らせるための電話は一人○分まで」と決まっているのに、「外国人がルールを守らない。しかし不安のためか、泣いて電話を掛けているようなので、途中で遮ることもできない」という日本人避難者の不満が募っていったということでした。

また、非常食を配るときには「一人一個まで」と決まっているのに、一人の外国人が複数人分の食料を持っていってしまうケースも見かけたそうです。

この光景を見た吉田さんがすぐに頭をよぎったのは、技能実習生たちは普段から「班行動」をするよう会社から言われており、「もしかしたら班の代表者が人数分持って行くというのが日本のルールだと考えたからではないか…」ということだったそうです。

避難所生活で吉田さんが感じたことによる我々へのメッセージは、「外国人であっても理由を説明すればわかります。わかりあうために、もっと話をしてほしい」ということでした。

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続いて、松岡先生から災害に備えて、地域日本語教室では日ごろから3つの視点を意識してはどうかというご提案がありました。

★災害の知識を知る・母国との違いを「知る機会」の提供

★災害から逃げる方法を「体験する機会」の提供

★災害について話すことで、「気持ちを伝え合う場」の提供

 

そして、同じ地域に住むメンバーとして、災害に対する当事者性を高めるには、次のことを「いっしょにやってみる」こと。地域日本語教育ではそれができると励ましていただきました。

・ハザードマップは見るだけじゃダメ。自分事として皆で作り直してみて。

・災害の常識が違うことに具体的に気づくような活動を取り入れてみて

・外国人特有の事柄について、日本人もいっしょに考えてみて(ご紹介:静岡県作成避難所運営ゲームHUG

 

あわせて、日本社会に向けてもう一つ、大事なメッセージ!

最後に、わずかな時間でしたが、参加者同士でブレークアウトルームに分かれ、この日の感想を話し合いました。終了後に寄せられたアンケートには、

・被災体験談からの教訓を、私たちに聞かせてくださった吉田さんへのお礼

・松岡先生のお話の分かりやすさ、また共感から納得できた。さっそく活動に取り入れていくという頼もしいご感想

が大変多く寄せられました。

 

下記、先生から参考情報です。

自治体国際化協会多言語情報等共通ツールの提供

Safety tips (観光庁)

やんしす YAsashii Nihongo SIen System

気象庁

仙台国際交流協会多言語防災ビデオ「地震!その時どうする?」
(11言語)

避難所運営ゲームHUG
*国土交通省、消防庁などのweb情報もあります

 

私たちも適宜、防災・減災に関する取組を取り入れてまいります。ご参加いただきました皆様、長い時間お疲れさまでした。

Maraming salamat po.

いつもありがとうございます。